Q:
高校生の子どもが自転車事故を起こしてしまい、歩行者の方に大けがをさせてしまった場合には、子どもや親にはどのような責任が生じるのかでしょうか?
A:
まず、高校生のお子さんご自身の刑事上の責任についてご説明いたします。
高校生の場合には、刑事責任能力が認められる14歳以上になりますので、刑事責任が問われる可能性があります。被害者の怪我の程度によっても変わってきますが、自転車側に、スピード違反や飲酒などの重大な過失があったり、ひき逃げをしたりすると、重過失致傷罪や道路交通法違反などの罪に問われる可能性があります。
次に、民事上の責任についてご説明いたします。
高校生であれば、通常事理弁識能力が認められますので、お子さんご本人が、民法709条の不法行為責任、つまり損害賠償責任を負うことになります。この場合には、親御さんには、民法714条の監督義務者の責任は生じません。
しかし、高校生ですから、お子さんご本人に、損害賠償金を支払う経済的能力がないことが通常ですから、最終的には、親権者である親御さんが、お子さんに代わって賠償金を支払うことが多いです。
また、普段からお子さんが自転車で危険な運転していることや飲酒していることを知っていたのに、それを注意しないでいたところ、お子さんが事故を起こしてしまった場合等には、親御さんご自身にも民法709条の不法行為責任が生じる場合もあります。
Q:
最近は自転車による事故で亡くなるケースもありますよね。そうなると、損害賠償金の高額になってきますよね?
A:
そうですね。自転車だからといって、車による事故よりも被害が軽いとは限りません。
例えば、10年近く前に、小学生の男の子が自転車に乗っていて、60代の歩行者の女性と正面衝突をし、女性が意識不明の重体となった事故がありました。このとき、この小学生の親御さん対して、裁判所が命じた損害賠償額は9500万円を超える金額でした。小学生がかなりのスピードを出して、前方不注意だったのですが、裁判所は母親の交通安全教育が不十分だったとしました。
このほかにも、高校生が自転車走行中に、歩行者と衝突し、頭がい骨骨折などの重傷を負わせて、3500万円余りの賠償金の支払いを命じられたケースもあります。
自転車はこれまで、車と違って保険への加入が義務付けられていませんでしたが、自転車による重大事故が多くなり、損害賠償額も高額となってきたので、条例で自転車保険の加入を義務付ける自治体もあります。万が一のためにも、保険には加入しておいた方が安心かもしれません。
また、車の保険の特約で、自転車についても対応できる場合もありますので、契約されている保険会社に確認してもよろしいと思います。
自転車による事故の裁判例は、車による事故よりも数が少ないのですが、最近増えてはいるようです。裁判では自転車側に、速度違反や信号無視などのルール違反がある場合には、そのルール違反の責任を重く見て、被害者の過失割合をゼロとみる例も少なくありません。
損害賠償責任も重くなりますから、自転車であってもルールは守って運転するように気を付けていただき、お子さんへの安全教育も大切になってきます。
Q:
保険に入っていなかったり、保険会社の方で示談交渉をしてもらえなかったりなどの事情で、当事者同士で話し合いができず、まとまらないときはどうしたらいいのでしょうか?裁判になってしまいますか?
A:
裁判という手段の他にも、相手が応じてくれれば、裁判外の紛争解決手続きである紛争解決センター、これを「ADR」と言ったりもしますが、このような制度を利用して解決することもできるかもしれません。
紛争解決センターは、裁判に比べて費用が少額で済み、解決までの期間も短くて済みます。ただ、裁判と違って相手を強制的に呼び出すことはできないので、紛争解決センターなどのADR期間を利用することについて、加害者と被害者が合意をしている必要があります。
当事者間でのお話し合いが難しいときや、過失割合、損害賠償額などについて具体的に知りたいなどの場合には、それぞれの事故や被害の状況によっても変わってきますので、弁護士などの専門家にご相談された方がよろしいと思います。
(12月7日放送)