Q:
私は婦人用品店で働いている30代後半の女性です。同年代の夫がいます。
現在のお店で働き始めてから、5年ほどになりますが、半年ほど前に子どもが生まれることになったので、店長に退職したいと伝えました。そうしたところ、人手が足りないこんなときにやめるのは非常識だから、退職金は出さないと言われてしまいました。
今後の生活のこともありますし、他に辞めた方でも退職金はもらっている方がいると聞きましたので、退職金はぜひもらいたいと考えています。
これまで裁判を利用したことがなく、お金や時間がかかると聞いたので、裁判は極力避けたいです。ただし、私の主張はちゃんと判断してほしいです。何か良い方法はないでしょうか?
A:
紛争を解決するためには複数の方法がありますが、今回は、任意での交渉と訴訟(裁判)、そして、労働事件の特徴的な手続きである労働審判についてご説明します。
●任意での交渉
まずは、任意での交渉についてご説明します。
交渉は、基本的に費用がかかりませんし、相手が交渉に前向きであれば、早期に解決可能です。さらに、あくまで話し合いなので、柔軟な解決もできます。
もっとも、当事者の力関係が交渉に反映されてしまうので、公平性に欠ける面があるのは否めません。また、法律の規制がないことから、口約束に留まり、後日、紛争が再燃するおそれもあります。
●訴訟
それでは、訴訟はどうでしょうか。
訴訟は、中立的な裁判所に判断してもらえるので、公正な判断を期待することができます。また、手続きが厳格なので、主張についても慎重に判断してもらえます。
ただし、訴訟にはかなりの費用と時間がかかることが通常です。場合によっては紛争の存在が公になってしまうおそれもあります。
加えて、訴訟を提起して初めて、相手方の主張や証拠を十分確認できるのが通常であることから、勝てるかどうかは実際にやってみるまで分からないというのが実際のところです。
仮に勝訴したとしても、相手方の会社が倒産していたりすると結局、回収もできず、裁判自体が無意味なものになりかねません。
●労働審判
任意交渉、訴訟共にそれぞれデメリットがあることから、労働事件の分野では、近年、増加傾向にある手続きが労働審判です。
労働審判は、原則として3回で手続きが終わるため、紛争の早期解決が期待できます。
また、手続きにかかる費用である印紙代も裁判に比べ、半分の印紙代ですみます。
さらに、審判委員は、裁判官と使用者、被用者のそれぞれの利益を代表する委員で構成されており、公平性にも配慮されているといえます。
このように様々な利点がありますが、実際に利用するにあたっては、注意すべき点があります。
すなわち、労働審判は、3回で手続きが終了するため、早期に争点が整理されることが前提となっています。そのため、審判委員は初回である第1回目の期日で、基本的な心証を決定すると言われており、特に初回の主張立証の出来によって、労働審判の結論が左右されることになります。
●質問に対する回答
以上の点を前提にしてご質問に回答すると、ご相談者には労働審判を提起することをお勧めします。
ただし、労働審判はご自分でも起こせますが、実際上、第1回目の審判までの短期間に、独力で適切な主張をすることは難しいと思われます。
労働審判をするに際しては、やはり専門の弁護士に依頼された方がよろしいでしょう。
(10月5日放送)