Q:
20代の女性です。友人の結婚式で再会した大学の同級生と意気投合し、3年間の遠距離交際を経て、結婚する予定でした。
ところが、先日彼が急に結婚をやめたいといい、婚約も破棄したいと言ってきました。理由を聞いても「気が変わった、申し訳ない」としか答えてくれません。共通の友人に話を聞いたところ、最近彼が他の女性と歩いているのを見た、どうやら新しい女性ができたらしいと噂になっていたと教えてくれました。
正式にプロポーズされましたし、婚約指輪ももらっています。二人で結婚式場も予約し、お互いの両親にも報告と挨拶をすませ、両家の顔合わせもしています。友人や職場の人たち宛ての招待状も準備しました。
それなのに、きちんとした理由の説明もなく急に取りやめるなんて納得できませんし、職場の上司や同僚の手前、結婚を取りやめたとは言い出せません。また、女性のことも一時的な浮気かもしれません。
婚約は結婚の約束なのですから、一方的に破棄はできないと思います。婚約破棄に応じず、結婚することはできないのでしょうか。

A:
確かに、婚約は法律的にいえば「婚姻の予約」、すなわち、結婚の約束で、一種の契約です。裁判所は、婚約を「将来婚姻を締結しようとする当事者間の契約」であるとか、「男女が、誠心誠意をもって、将来夫婦となるべきことを確定的に合意すること」としています。
特に「契約書」という形にしなくても、合意をすれば、約束どおり婚姻をする法律上の義務があります。
ただ、商売上の契約と異なり、結婚は身分法上の行為で自由な意思によることが必要ですので、結婚を強制することはできません。
  
Q:
婚約をしたことは会社にも報告し、彼の赴任先で一緒に住むために、勤務先の会社を辞めています。急に婚約を破棄されて、上司や同僚に対しても説明しづらいし、会社には戻りたくても戻れません。仕事は気に入っていて、婚約しなければ続けていたと思います。
せめていくらかでも埋め合わせをしてほしいと思いますが、結納もしていないから婚約は成立していないと言って話し合いにも応じてくれません。
彼に対して損害賠償や慰謝料は請求できないでしょうか。

A:
婚約成立が認められるためには、必ずしも結納など形式による必要はないですが、結婚に対する真摯な合意があったとことが必要です。真摯な結婚の合意というのは、心から結婚しようと思った、くらいの意味です。
単に「結婚を前提に交際していた」とか、友人に「彼女」として紹介されただけでは足りませんが、お互いの両親や会社の上司などに「婚約者」として紹介したり、結婚式場を予約した等の事情は、真摯な結婚の意思を裏付ける事情となります。
ご相談のケースでは、両家にあいさつし、結婚式の招待状も準備していますから、まず婚約の成立が認められると思います。
婚約成立が認められる場合、正当な理由なく破棄すれば債務不履行(民法415条)または不法行為(民法709条)にあたる可能性があります。正当な理由というのは、相手の行方不明、婚約成立後の不貞行為、暴力や虐待、著しく社会常識に反した言動等です。
ご相談者にそのようなご事情がなければ、正当な理由のない婚約破棄と言うことになるでしょう。その場合は一方的な婚約破棄により精神的に傷つけられたとして慰謝料の請求が可能です。

また、婚約破棄により物質的損害を被った場合には、その損害の賠償を請求できます。 
結婚式場のキャンセル代などが代表例ですが、相談のケースでは、招待状の作成費用や両家の顔合わせの際の食事代なども請求できそうです。また、婚約しなければ会社を辞めず仕事を続けていたのですから、仕事を辞めなければ得られた収入についても請求できる可能性があります。

慰謝料の具体的な金額や、どのような損害に対して賠償請求できるかは、事情によって異なる難しい問題です。専門家に相談されることをお勧めします。

(8月3日放送)