Q:
私は50代の男性です。数年前に、父が亡くなり、母と兄弟3人で、父の財産を相続しました。父の財産は、預金がいくらかと自宅兼事務所にしていた建物と土地です。自宅には母が住んでいたため、遺産分割をせずにそのままになっていました。
父は生前、自宅の1階を事務所として使用していましたが、子どもはみなサラリーマンで後を継がなかったため、引退してから事務所部分は他人に貸していて、2階部分の自宅で母と暮らしていました。父が亡くなってからは、母が一人で住んでいました。
ところが、先日母が亡くなったため、兄弟の間で遺産分割をしようということになりました。
そのことに関していくつかわからないことがあるので、お聞きしたいと思います。
まず、一点目の質問ですが、母は一人暮らしをしていましたが、ここ2、3年は足を悪くして一人で暮らすのが難しくなっていました。そのため、私の妻がずっと通って食事や入浴の世話をしていました。母はいつも感謝してくれて、妻にお礼として自分が亡くなった後、自分の預金100万円を妻に贈ると言っていました。ただ、口約束で、書面には残っていません。
このような場合、母の相続財産から妻が100万円を受け取ることはできるのでしょうか?

A:
お母様が亡くなった後、奥様に100万円をあげるという約束自体は、死因贈与契約として成立します。死因贈与契約とは、「死んだら、私の持っている●●の財産をあげるよ」という約束のことです。契約自体は口約束だけでも成立します。
そのため、相続人であるご兄弟が特に反対せず、奥様が100万円を受け取ることを認めてくれるのであれば、奥様は100万円をもらうことができます。
しかし、ご兄弟が反対して、もし争いになった場合には、お母様と奥様との間で死因贈与契約があったことがわかる契約書などの書面がないと、100万円をもらうのは難しくなってしまいます。早く言えば契約書のような書面です。

Q:
もうひとつの質問です。他人に貸していた事務所の賃貸料についてです。
父が亡くなってからも名義変更はしていないので、賃貸している建物は父名義になったままです。賃料収入は母名義の口座に振込まれていましたが、特に使うこともなく、ほぼ全額が残っています。総額で300万円くらいになると思います。
この賃料収入は全額、母の相続財産になるのでしょうか?

A:
亡くなったお父様の財産である不動産の賃料収入ですから、お母様の名義の口座に振込まれていたとしても、それがそのままお母様の財産になるわけではありません。この場合、賃料収入は、遺産分割がされていないお父様の相続財産である不動産から生じた利益となります。
これについては考え方が分かれていましたが、平成19年に最高裁の判例が出されました。最高裁は、平成19年の判決で、遺産分割されない間に生じた賃料などの金銭債権については、遺産とは別の財産であり、各相続人が相続分に応じて各自取得する、と判断しました。ここでいう相続分とは、法律上規定されている相続分のことです。

お母様の法定相続分が2分の1、3人のご兄弟の相続分がそれぞれ2分の1の3分の1である6分の1になります。そのため、お父様が亡くなってから、お母様が亡くなるまでの間の300万円の賃料収入については、その2分の1の金額である150万円がお母様が受け取れる分となります。そして、ご兄弟3人は、それぞれ300万円の6分の1である50万円を受け取れることになります。

ご兄弟は、50万円については、遺産分割協議をしなくても、それぞれ自分の物として受け取ることができます。
しかし、お母様が受け取るはずであった150万円は、お母さんの相続財産となりますので、ご兄弟で話し合って遺産分割をする必要があります。

(平成30年2月8日放送)