Q:
私は70代の男性です。最近、終活を考えるようになりました。今住んでいる自宅の相続について聞きたいことがあります。
私には、妻の他に、息子と娘が一人ずついます。
5年前に妻が病気をして入院したときに、「高齢者だけの生活は心配だから」と、娘夫婦が同居を申し出てくれました。そこで、それまで住んでいた自宅を二世帯住宅に建て替え、今はそこで、妻と娘夫婦と一緒に暮らしています。
二世帯住宅に建て替える際に、建設費用の半分を娘の夫が負担してくれたので、土地は私の名義ですが、建物は私と娘の夫で2分の1ずつの共有名義となっています。
私が死んだ後、今住んでいる二世帯住宅についての相続はどうなるのでしょうか?
A:
建物のうち、義理の息子さんの持分2分の1については、義理の息子さんに所有権がありますので、ご相談者の相続の対象にはなりません。
相続が問題となるのは、二世帯住宅が建っている土地とご相談者の建物の持分2分の1になります。
ご相談者の場合、相続人は、奥さんと二人のお子さんです。遺言書がない場合には、法定相続分という民法に規定された相続分で相続します。相続分は、奥様が2分の1、二人のお子さんが4分の1ずつです。
そのため、土地は、奥さんが2分の1、息子さんと娘さんがそれぞれ4分の1ずつを相続します。建物は、ご相談者の2分の1の持分について、奥さんが2分の1、息子さんと娘さんが4分の1ずつ相続します。そうなると、最終的に建物については、奥さんが4分の1、お子さんが8分の1ずつの持分で、義理の息子さんが2分の1の持分を持つというということになります。
Q:
娘はよく私たち夫婦の世話をしてくれるし、孫たちも今の家から離れたくないと言っているので、私が死んだ後は、二世帯住宅の土地や建物の2分の1の持分については、娘に相続させたいと思っています。妻も了解しています。
二世帯住宅の土地や建物の持分を娘に相続させることはできるのでしょうか?
A:
財産の処分は権利者が自由に決めることができますので、二世帯住宅の土地と建物の持分は、娘さんに相続させるという内容の遺言書を書いておかれるのがよろしいと思います。
遺言書について、特に書式などはありませんので、「二世帯住宅の土地と建物の持分を娘に相続させる」という内容を紙に書いておくという方法でも大丈夫です。
以前にもご説明させていただいたことがありましたが、これを自筆証書遺言と言います。この場合、作成年月日も含めて、全てを自筆で書く必要があります。署名と捺印も必要です。ワープロで作成して、署名のみ自筆というのは、自筆証書遺言として無効ですので、注意が必要です。ただ、後日、裁判所に検認の申立てが必要となります。
この点、費用はかかりますが、公正証書にしておけば、検認の手続きをする必要がありません。
ただし、自筆証書遺言であっても、公正証書遺言であっても、息子さんには「遺留分」という権利があります。これも以前にご説明させていただいたことがありましたが、遺留分というのは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が、最低限相続できる相続財産のことです。息子さんの遺留分は、相続財産全体の8分の1になります。
遺留分を侵害するような遺言内容の場合は、息子さんが遺留分減殺請求をすると、娘さんは、息子さんに対して、息子さんの遺留分相当額を渡す必要があります。
しかし、遺留分については、裁判所に申し立てて、許可をもらえれば、相続開始以前でも、予め放棄することができます。もし今の段階で、息子さんが遺留分を希望しない場合には、息子さんに遺留分を放棄してもらうという方法もあるかもしれません。
Q:
もし、遺言書がない場合にはどうなるのでしょうか?二世帯住宅の土地や建物の持分を娘に相続させることはできなくなってしまうのでしょうか?
A:
相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる遺産分割をすることができます。
二世帯住宅の土地や建物の持分については、娘さんだけが相続するという内容で、相続人全員、つまり、奥様と息子さん、娘さんの3人で合意をすれば、娘さんが相続することができます。
Q:
息子には、息子が家を買うときに資金を援助したりしているので、二世帯住宅の土地と建物の持分の相続については、放棄してもらいたいと思っています。後でもめないように、「放棄します」という内容の書面を作って、息子に署名と捺印をもらっておけば大丈夫でしょうか?
A:
相続の放棄は、相続が開始した後にしかできないと民法で規定されていますので、予め相続を放棄することはできません。
また、相続開始後に放棄する場合であっても、相続放棄の意思表示は裁判所に対してする必要がありますので、「放棄します」という内容の書面を作って、署名捺印したとしても、法的効果はありません。
ご相談者のご意向を叶えるためには、まずは遺言書を作成するという方法が1番良いのではないかと思います。
公正証書遺言を作成する場合など、ご不明な点がありましたら、わたくしどものような専門家にご相談いただければと思います。
(1月25日放送)