Q:
私には小学生の息子がいるのですが、息子が自転車で走行中に、歩行者とぶつかってしまいました。友達とおしゃべりをしながら走っていたところ、よそ見をしていて歩行者に気づかず、ぶつけてしまったようです。被害者の方は突き飛ばされて転倒し、救急車で病院に運ばれてしまいした。
その後、息子から連絡があり、すぐに被害者の方のお見舞いと謝罪に伺いました。幸い、けがは軽く、お詫びをして、けがの治療費とお見舞い金をお支払いすると申し出たところ、受け入れていただけました。息子も反省し、これからは十分気をつけると約束させました。
今回は、軽いけがですみましたが、もし、大けがをさせてしまっていたらと思うと、ぞっとします。もし、子どもが自転車でぶつかって歩行者の方に大けがをさせてしまった場合、子どもにはどのような責任があるのでしょうか?また、親には何か責任が生じるのでしょうか?

A:
まず、自転車と歩行者の交通事故で、歩行者に損害(けが等)が生じた場合には、刑事責任能力が認められる14歳以上の場合で、自転車側に重大な過失(スピード違反、飲酒など)があったり、ひき逃げをしたりすると、重過失致傷罪や道路交通法違反などの罪に問われる可能性がありますので注意してください。
今回のケースは、小学生のお子さんの事故ですので、刑事上の責任ではなく、民事上の責任である損害賠償責任についてご説明します。

自転車で走行中に、不注意によって、他人にけがをさせたり、他人の物を壊したりという「損害」を与えた場合には、加害者は、被害者に対して、被害者の受けた損害を賠償する責任を負います。これは、民法709条に規定されている不法行為に基づく損害賠償責任です。
損害賠償責任の原則は、原状回復、すなわち損害がなかった元の状態に戻すことになります。けがなら治療費、物を壊せばその物の金額を弁償することです。
また、仕事を休んだり、通院・入院をしなければならなかったりした場合には、休業補償や慰謝料を支払わなければならないこともあります。交通事故ですから、自転車といっても、自動車事故と基本的に変わりません。

先ほど、加害者が14歳未満の場合には、刑事上の責任は問われないというお話をしました。
民事上の責任の場合でも、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき」は損害賠償責任を負わないという規定が、民法712条に書かれています。「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」とは事理弁識能力と言われるもので、ざっくり言えば、自分のしたことが法的に悪いこと、誰かに迷惑をかけるものだと判断できる能力、とでも考えてください。
個別事情もあるので一概には言えませんが、一般的には12歳程度の知能とされます。判例でも12歳くらいを基準とすることが多いです。事理弁識能力が認められないと、民事上の損害賠償責任も負いません。

Q:
そうすると、12歳よりも年齢の低い小学生の場合には、民事上の損害賠償責任も負わないということですか?

A:
そうなることが多いでしょう。ただし、それはお子さん自身が賠償金を支払う義務を負わないということであって、誰も責任を負わなくていいというわけではありません。
民法714条には、子供に責任を問えない場合には、親御さんが賠償責任を負うと書かれています。これを監督義務者の責任と言います。

Q:
子供が事故を起こすと、親が責任を負うのですか?

A:
小学生のお子さん場合、通常事理弁識能力がないので、法的に損害賠償責任は負いません。しかし、親権者である親御さんには、お子さんを監督する法的な義務があるのですから、ご自分のお子さんが他人を怪我させないようにする監督義務を怠った責任を問われます。
ご相談のケースでも、親御さんであるご相談者が治療費を払ったり、謝罪したりされていますが、これを法律的に考えると、監督義務者の責任を果たしていることになります。
ただ、親御さんがお子さんの監督を怠らなかったと証明できる場合や、監督を怠らなくても損害が生じたであろう場合には、親御さんも責任は生じませんが、これは例外的な場合と考えた方が良いと思います。

Q:
もし事故を起こしてしまった子供が高校生の場合にはどうなるのでしょうか?小学生の場合と違いはあるのですか?

A:
そうですね。お子さんが小学生か高校生かによって、法律的には違いが生じます。
これについては、来週ご説明させていただきたいと思います。

(11月30日放送)