Q:
私は川口市に住んでいる46歳の女性です。夫と義理の父親と私の3人で同居しています。夫の母である義理の母は数年前に亡くなりました。夫は24歳位から大企業に勤めており、総務課一筋で20年間働いてきました。
私は、専業主婦ですが、体が弱く病気がちで、家事をなんとかこなすことで精一杯でしたが、これまでは、私の体調が悪いときなどは、夫が早めに帰宅して家事などを手伝ってくれていたので、なんとかやっていけていました。
そうしたところ、ここ2、3年で義理の父親に認知症の症状が現れ始めました。そのうえ、先日、会社の業務円滑化のためとして、夫に対し、名古屋への転勤命令が出されました。
夫が単身赴任したら、とても私一人では義理の父親の介護はできません。また、夫も転勤したくないと言っています。
そこで、夫の転勤命令に対して、どのように対処していけばよいか分からないため、質問させてください。この転勤命令は、やむを得ないものとして、我慢しなくてはならないのでしょうか。

A:
1 配転命令とは
まず、ご質問のケースでは、質問者の方のご主人が名古屋に転勤を命じられていますが、この転勤命令は、法律上は、「配転命令」というものにあたるとされています。
仕事の内容や勤務場所が長期間にわたって変わる場合を、法律上は「配転」と呼んでいますが、転勤も配転に含まれるとされているので、ご質問のケースも配転命令にあたることになります。

2 配転命令の有効要件
それでは、配転命令にあたるとして、労働者の側は、これに無条件で従わなくてはならないのかについて考えてみましょう。まず、配転命令が有効とされるためには、一定の要件が必要とされています。
配転命令が有効とされるには、①1つ目には、配転命令をする労働契約上の根拠があり、その範囲内であること、②2つ目に、法令違反等がないこと、そして、③3つ目に権利濫用ではないこと、の要件を満たす必要があります。このほかにも例外的な事情もありますが、今回は割愛します。

まず、1つ目として、配転命令を出すためには、労働契約や就業規則等に、配転命令の根拠条文が定められていなければなりません。通常は、就業規則に、配転命令についての定めが置かれていることがほとんどなので、この要件が問題になることは、あまりありません。

次に、2つ目の要件として、法令違反等があってはいけません。そのため、労働基準法や労働組合法などの法律に違反すれば、配転命令が無効だと判断される可能性も高まります。

そして、3つ目の要件として、配転命令が、権利濫用にあたってはいけません。この要件は、様々な事情を総合的に考えて、配転命令が権利濫用にあたるかどうかを判断するものです。
その例として、裁判などで考慮される事情を簡単にご説明すると、配転させる必要性がどの程度あるのかという事情や、配転させる労働者のを選ぶ際には合理的な基準によっているかという事情や、配転により、その労働者が著しい不利益を被ることにならないかといった事情があるかどうかで判断されます。

3 本件に対する回答
それでは、ご質問のケースがどうなるか、考えてみましょう。

まず、配転命令の根拠はあるでしょうか。
ご主人の勤務先が大企業とのことですので、就業規則などで、配転命令について定めていないとは考えにくいです。そのため、配転命令の根拠はある、ということになると思われます。

次に、法令違反等はないでしょうか。
ご質問のケースでは、明らかではありませんが、特に会社側の法律違反といった事情もないように思われます。

それでは、権利濫用にあたらないでしょうか。
これについては、近年、育児介護休業法が改正されました。そのため、配転命令を出す際には、介護者に対して配慮しなければならないということを示す裁判例が増えてきています。そのため、ご相談者のような介護の問題を抱えておられる労働者に対する配転命令は、無効になりやすい傾向があると思われます。

そうすると、ご質問のケースでは、ご質問者が、認知症の義父と同居しており、ご主人からも日常的に介護に協力してもらえなければ、義父の介護が十分に行えないといった事情があります。そのため、配転命令がされた場合には、義父の介護ができなくなり、これまでのような家庭環境を維持していくことが難しくなると考えられますから、配転命令が無効とされる可能性は高いと思われます。

もっとも、配転命令が本当に無効となるかどうかには、その他の事情も考慮する必要がありますし、慎重な判断が要求されます。
また、こうした主張をするには、まずは会社と交渉することになると思われますが、法律的な専門知識が必要となりますし、交渉が決裂した場合は、労働審判や訴訟になる可能性が高くなります。
そのため、まずは、法律の専門家にご相談されることをおすすめします。

(平成30年3月1日放送)